自転車で小樽から稚内へ~僕は初めて北海道の大自然を満喫した。

ロードレーサーで走る男性

この年、1ヵ月近くかけて北海道を一周した。

1ヵ月の出来事を全て綴るととんでもない分量になるので、特に思い出に残っている小樽から稚内の間の道のりでの出来事をまとめてみたい。

 

 

新日本海フェリーで小樽に上陸した僕はいきなり悩んだ。

どこに行こうか、と。

 

それまではただただ北海道に上陸することしか考えてなく、フェリーが小樽に着いた瞬間に目標が達成されてしまったのだ。

 

小樽のフェリー

 

さて、どうしよう。

とりあえず北海道を一周でもしてみるか。

ではどこを目指そう。

とりあえず最北端にでも行ってみるか。

 

なんとなくそう思い、稚内を目指した。

 

北海道に上陸してから稚内まではずっと走り続けていたと思う。

あの時は大学の夏休みを利用して旅していたのだが、僕の中で北海道の存在はとにかく大きくて、とにかくペダルを漕いで少しでも前へ前へ行かなくては学業が始まってしまうと焦っていた。

とにかく自転車を漕いでいた。

 

ロードレーサーで走る男性

 

北海道は夏でも本州ほど暑くない。

そして道も広い。

街を抜けたら信号の数も一気に減るので走りやすい。

 

ただ、全ての道がそういうわけではない。

例えば勾配なんてものは多い上に、街を離れるとお店、特にコンビニの数が急激に減るので、軽食や水分は街で購入しないといけないときもある。

 

僕が小樽から稚内を目指すとき、国道231号線を使った。

この道は札幌から留萌を繋ぐ道で海沿いを走る道である。

他にも国道275号線という内陸から北を目指す道があったのだが、何となく内陸=山道を突き進むイメージがあり、勾配を回避するために海沿いの231号線を選択したのだ。

 

ところがこの道が、後々に走った北海道の道の中でも群を抜くほど過酷な道のりであった。

まずアップダウンが立ち向かうかのようにある。

そして路側帯が狭い。

 

小樽から札幌の間の国道5号線もそれなりにアップダウンはあり、交通量も多い。

しかしここは路側帯が広く設置されているので実は走りやすいのだ。

 

ところが231号線はものすごく狭い。

そして交通量こそ少ないものの、トラックはやけに走る。

 

そして一番怖かったのがトンネルである。

 

トンネル

 

自転車で走っていて特に怖いのはトンネルだ。

特に北海道のトンネルは歩行者が通行することを考えずに造られたのか、歩道がほとんどないのだ。

 

もちろんドライバーも歩行者が通るとは思ってもいないので、ハイスピードでトンネルを走る。

その状況下でチャリダーは轢かれないように、と神様に祈りながら全力でペダルを漕がなくてはいけないのだ。

 

そのようなトンネルがこの国道231号線には10数個設置されている。

トンネルは大量、歩道は極小。

トラックはぶっ飛ばすわでチャリダー泣かせのトンネル。

しかも切り抜いて作ったはずなのにどういうわけか勾配のあるトンネルもあり、びくびくしながら走りきるのは骨が折れた。

 

留萌の手前の増毛町という場所に着いたときは、精神的に参っていて町内の公園ですぐに野宿をした。

次の日は増毛町から更に北に北上した。

 

留萌市から稚内市までは国道232号線で結ばれている。

この道は前日の231号線とは違ってトンネルはなくて、アップダウンもそこまで多くないシーサイドラインだ。

天候が晴れということもあり、気持ちよく走ることができた。

 

この辺りで対向から走ってくるチャリダーがやけに目立つことに気づいた。

僕はたまたま時計回りに北海道を走っていたが、中には反時計回りで走る人がいるのだ。

 

手を振る。

手を振ってくれる。

言葉を交わさずとも仲良くなれた気がした。

 

 

走っているとバイクが僕の横を颯爽と走り抜く。

そのとき通りすがりのライダーたちが僕の横を駆け抜ける際、左手で手を振ってくれたり拳を掲げたりしながら走る場面が多々あった。

 

ライダー

 

北海道では旅人は皆仲間であるという風潮があり、チャリダーへエールを送ろうということでこのような文化が広まっているのだ。

いままで本州ばかり走っていたときはそのようなことはなく、その意味を別のチャリダーに聞いたときは感動を覚えた。

 

この日はひたすら国道232号線を走って初山別村という場所まで来た。

このころ陽がやや傾いていて走ろうかどうしようか考えながらペダルを漕いでいたら、左手に海岸が見える。

ちょっと寄り道してみようと思い、自転車を持って入ってみた。

 

波が穏やかで人の気配は全くなく、さざ波の音しかない。

水道水を汲んだペットボトルをいくつか持っていたので、簡単なゴハンならここでも作れるし飲み水も問題ない。

一日だけならここで寝られる。

そう思ったときにはテントを立てる準備に入っていた。

 

テントを拵えると砂浜に転がっている木の枝と、燃焼しそうな葉っぱを集め、テントの前で組む。

陽が沈むと同時に、組んだそれにライターを近づける。

小さな火が灯りとなってテントと僕を照らす。

 

暗闇の中で燃え続ける焚き火というのは見ているだけでなぜか心が和む。

今いる海岸全てを僕だけが占有している気分であった。

 

焚火の火

 

その海岸を少し歩いてみようと立った。

焚き火から離れると足元は真っ暗だが上を見上げると満天の星空が現れた。

敷き詰められたように星が見える。

星ってこんなに在ったのか。

 

自然の光とは美しいものでずっと見入ってしまう。

海岸で仰向けになりしばらく空を眺めた。

 

相変わらず人間は僕一人だ。

さざなみの音と焚き火のパチッパチッという音、そして僕が砂浜を歩いている音、それ以外は何も聞こえなかった。

 

最高だった。

幸せだった。

これが北海道なのか。

 

北の大地、最果ての土地、北海道を走り出して3日目の夜。

僕は初めて北海道の大自然を満喫した。